ご挨拶
がんは日本人の国民病で、今や、日本人の2人に1人はがんに罹り、3人に1人はがんで命を落とす時代を迎えています。がん治療の中で、薬物療法を中心とする専門分野が「腫瘍内科」です。
米国では、がんの薬物療法は腫瘍内科医が中心になって行われています。近年、わが国でも、がん診療が高度化する中で、腫瘍内科の重要性が認識されて、大学医学部に腫瘍内科学の教室ができ、大学病院やがん専門病院、総合病院には診療科として腫瘍内科が広まっています。北海道大学大学院医学研究科では、2001年に「腫瘍内科学分野」が教室として誕生し、秋田弘俊が初代教授を拝命しました。また北海道大学病院では、2004年に診療科として「腫瘍内科」ができ、肺がん、消化器がん、頭頚部がん、乳がん、肉腫、原発不明がんなど、固形がん全般の患者さんを幅広く診療しています。
私たちの教室運営の柱は、
1)診療の充実
2)将来を担う腫瘍内科医の育成
3)難治がんの克服をはじめとする腫瘍学の発展への貢献
の3本です。
1)診療の充実
私たちは、がんで苦しんでいる患者さんに対して、
- 最新の標準治療からなる薬物療法を提供し、最善の治療成績をめざします。
- 腫瘍内科医のみではなく、外科医、放射線治療医、緩和医療医をはじめとする関連診療科の医師、看護師、薬剤師、栄養士などとともにチーム医療を提供することによって、高水準で、かつ患者さんの満足度の高い医療の提供に努めています。北海道大学病院のキャンサー・ボードにも積極的に関与しています。
2)将来を担う腫瘍内科医の育成
- 私たちは、がんの薬物療法と集学的治療に精通し、各種の悪性腫瘍を総合的に診療できる腫瘍内科医の育成に励んでいます。日本臨床腫瘍学会「がん薬物療法専門医」の養成を念頭に、教室員が後期臨床研修において幅広い専門研修を行い、専門医を取得することを積極的に支援しています。
- 同時に、下記3)に示す研究を通して、大学院での研究・学位取得を指導しています。
- 将来のがん医療と臨床腫瘍学を担う人材を育成することが私たちの使命です。
3)難治がんの克服をはじめとする腫瘍学の発展への貢献
- 臨床試験をはじめとする研究的治療、臨床研究を行って、新しいがん医療の開発に尽力しています。
- 悪性腫瘍の原因や悪性度に関わる主要な遺伝子・分子異常が明らかになり臨床医学に応用できる時代を迎え、がんの遺伝子・分子異常の情報をがんの診断・治療・層別化に応用する研究を積極的に行って、次世代のがん医療、とくに個別化治療の開発を推進します。とくに、新しい治療法を開発するトランスレーション研究、およびそれを実地診療に導入するための臨床試験は、がん治療成績を向上させるためには必須でありますので、力を注いでいます。
- これらの研究を通して、大学院生の研究指導に努力しています。
わが国のがん患者数は増加の一途を辿っており、薬物療法を中心とする総合的ながん診療の担い手としての腫瘍内科医の社会的なニーズが益々高まっています。がん患者さんに最善の治療を提供し、がん医療の進歩と臨床腫瘍学の発展に貢献することが、私たち、北海道大学腫瘍内科学分野の使命であり、そのために教室員一同、日々、励んでいます。若い医師・研修医が数多く集うことを心から念願しています。
注)一般の皆様、患者の皆様へ
がん薬物療法とは、抗がん薬や分子標的治療薬などの薬を用いた治療のことです。がんの発見時にすでに原発巣から離れた部位に転移を認める場合や、手術をした後に再発した場合には、がんはいわば全身病になっていますので、このような患者さんでは薬物療法を中心とした全身に広く行きわたる治療が行われます。また、治癒をめざして、手術や放射線治療と組み合わせて薬物療法を行うこともあり、手術や放射線治療の前に薬物療法を行う場合や、手術の後に薬物療法を行う場合、放射線療法と同時に薬物療法を行う場合などが該当します。